だいたいアルバムタイトルに「作戦失敗」というのは聞いた事がないですが、非常にインパクトがあります。ですが、下手したらタイトルを上回る程の、インパクトのある内容になっています。
本作はフリー・ジャズではありません。オーソドックスなジャズでもありません。具体的には田中信正オリジナルとカヴァーですが、カヴァーも原形をとどめないオリジナルに近いものです。
別の言葉で言うと、音楽家・田中信正の独自の世界観を、落合康介と橋本学とで忠実に表現し拡大したもの です。個人的には「狂気とユーモアの間(はざま)」というキャッチコピーを付けたい。
ジャンルとしてはコンテンポラリー・ジャズなのかも知れませんが、リスナーとしても聴いた事がない音楽です。古今東西ジャズからロック・ポップス・テクノ・民族音楽まであらゆる種類の音楽は聴いてきたつもりなんですが。
田中信正さんとは、当初デュオでライブをやっていました。
動画は違いますが、当時から譜面が4枚くらいのスコアになっているオリジナルをやっていました。あまりに独自性が高く、かつ自由にやらせて貰えていたので、この面白さを強調するには打楽器パートも自分でスコアを作るしかないと思い、ライブで曲を把握していくに従って徐々に打楽器パートを脳内で作っていきました。
ある時「ベースを入れてトリオでやりたい」と言われ、「これをトリオでやったら凄い事になるな」と思いつつ、果たしてこの凄まじい音楽に適任者はいるのかとも思いました。
しかし後日、落合康介はどうかと相談されました。自分としては大好きなベーシストであり(ライブをお願いした「橋ワタシ学session vol.1」↓)
彼のインパクトのある音色とガッツ、イマジネーションがあればきっとトリオとして成立すると思い、諸手を上げて賛成しました。こうして田中信正トリオは結成されました。
彼のインパクトのある音色とガッツ、イマジネーションがあればきっとトリオとして成立すると思い、諸手を上げて賛成しました。こうして田中信正トリオは結成されました。
ではまた1曲ずつ、打楽器視点からコメントします。
1.サゾエ
もともと、国民的キャラそのままの「サザ◯さん」というタイトルでした。曲は全くのオリジナルですが、タイトルがさすがにまずいとの事で「サゾエ」になりました。しかし、アドリブその他に「サ◯エさん」のDNAが散りばめられております。
2.フラワー・アブストラクション VII
Saxの井上淑彦さんに捧げられた曲。譜面の途中に「いのうえさん」と書かれた箇所がありました。さて、どこでしょう?CDを聴いて探してみて下さい。拍子を数えて演奏すると必ず間違えます。
3.レントより早く
新宿ピットイン等でいつも行うハンドマイク奏法を、ライブに極めて近い状況で録音させてもらいました。美しい曲。1ミリもビートを刻んでいません。
4.フットステップス・オブ・ジャパニーズ・ショート・テイル
1発OKのユーモラスな曲です。ハーモニーが独特です。
5.作戦失敗
レコーディング直前の一か八かのアレンジ改変。技術的難易度が高く、レコーディング時もアレンジに翻弄されつつ、綱渡り的に完走を果たしましたが、タイトル曲に相応しい限界点のスリルと緊張感が記録できたドキュメントです。こんなドラムソロは二度と叩けない!
6.セルキーズ・ダンス
打楽器のキーが曲のキーに一致していて気持ちが良い。アレがレコーディングでこんなに活躍したのは初めてかな?
7.奇走曲
2分30秒とは思えない急展開。制御不可能かと思われるマシンを、安全装置シートベルト無しで制御し切ったドキュメント。急発進→急停止。
8.ゼア・ウィル・ネバー・ビー・アナザー・ユー
「オリジナル書いていたらどうしてもアナザーユーになっちゃったんだよね〜」というわけで突然ですがスタンダード・ジャズです。しかし原形はとどめていません。
9.タベルリンゴ
アナグラムで有名曲タイトルが出てきますが、あくまで「食べる林檎」です。これも拍子を数えたら負け。本当は恐ろしいグリム童話。
10.夏の星座
打楽器の役どころは「日本の夏」ですねえ。これはアート・ブレイキーでも絶対演奏できないね!
公式フライヤーにレコ発情報もあります。
ライブの現場ではさらに進展がありますが、レコーディングではこれらの曲達の1つの完成形が余す所なくお楽しみ頂けます。
レーベル「ローヴィング・スピリッツ」のオーナー・富谷さんがこの田中信正trioの最大の理解者であり、一番面白がってくれていました。ありがたい事です。兎に角、このとんでもない作品に参加できて、世に出てしまった事が驚きです。あとは皆様、是非聴いてみて下さい!
(Amazon.co.jpアソシエイト)
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